5-5.各種相続税の軽減措置
ここでは、代表的な相続税の軽減措置を見ていきます。
税額そのものを免除するものと、課税財産を圧縮するものがあります。
1.配偶者の税額の軽減
配偶者の税額の軽減とは、被相続人の配偶者が相続した正味遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。税額そのものを免除する特例です。
① 1億6,000万円
② 配偶者の法定相続分相当額
この特例は、相続税の申告期限までに遺産分割されていないと、受けることができません。財産は税額軽減の対象になりません。
ただし、ひとまず法定相続分で申告し、申告期限から3年以内に遺産分割したときは、税額軽減の対象になります。
2.小規模宅地等の評価の減額の特例
小規模宅地等の評価の減額の特例は、生活の基盤となる最低限必要な財産を相続税から守るため、被相続人の居住用宅地や事業用宅地のうち、一定の相続人が取得する際に、所定の面積までは通常より評価を下げるものです。最大80%の減額となります。課税財産の圧縮をはかる制度です。
1)減額される割合
ア)上限面積と減額割合の概略
宅地の状況 |
種類 |
限度面積 |
減額される |
---|---|---|---|
居住用 |
A特定居住用宅地(居住) |
330㎡ |
80% |
事業用 |
B特定事業用宅地(事業営む) |
400㎡ |
80% |
C特定同族会社事業用宅地(不動産貸付) |
|||
D貸付事業用宅地(不動産貸付) |
200㎡ |
50% |
イ)主な留意点
① A特定居住用宅地と、B・Cの各事業用宅地は併用できるので、最大730㎡まで適用可能です。
② B特定事業用宅地と、C特定同族会社事業用宅地は、合わせて400㎡までの適用となります。
③ D貸付事業用宅地(不動産貸付)に適用しようとすると、A居住用やB・C各事業用宅地と、面積の調整計算が必要となります。上限が200㎡に固定されてしまいます。
2)特例を受けるための要件
居住用、事業用ともに、要件が定められています。ここでは、居住用の特例を受けるための要件のみお話します。
「居住要件」とは、相続人が相続税申告期限まで居住し続けることです。
「所有要件」とは、相続人が相続税申告期限まで、その宅地を所有し続けることです。
被相続人 |
相続人 |
||
---|---|---|---|
属性 |
居住要件 |
所有要件 |
|
軽減対象とする宅地上の建物に居住 |
配偶者 |
なし |
なし |
軽減対象とする宅地上の建物に居住 |
同居親族 |
相続開始前から居住 |
あり |
軽減対象とする宅地上の建物に居住 |
非同居親族 |
なし |
あり |
居住していない |
非同居親族 |
相続開始前から居住 |
あり |
3)留意点
ア)非同居親族(家なき子)で適用を受けられないケース
① 宅地を相続する相続人(非相続人と別居)が、相続開始前3年以内に、次の者が所有する家屋に住んでいたことがある場合
ⅰ)自己又は自己の配偶者
ⅱ)三親等内の親族
ⅲ)特別の関係のある法人
② 相続開始時に住んでいた家屋を過去に所有していたことがある場合
イ)被相続人が晩年、老人ホームに入所しても適用が受けられるケース
次の要件を満たせば、老人ホーム入所前に住んでいた建物の敷地について、特例の適用が受けられます。
① 老人ホームが一定の要件を満たすこと
② 被相続人が亡くなった時に要介護認定を受けていたこと
③ 入所前に住んでいた建物を貸付用としていないこと
ウ)二世帯住宅の場合
二世帯住宅で、区分建物の登記となっているときは、被相続人の居住用部分に対応する敷地だけが、特例の対象となります。