10-8.遺言の失敗事例

10.遺言

1.子どものいない夫婦、遺言作成が間に合わなかった事例

Bさんは、夫との間に子どもは恵まれませんでしたが、夫がとても優しく、夫婦二人の生活を楽しんでいました。夫は来年には定年を迎えます。互いに相手を思いやれる夫婦で、定年退職後は、老後の生活設計を二人でしっかり考えよう、それぞれ残された相手にすべての財産を相続させるとする遺言を書いておこうと話していました。

そんな折、夫が突然、脳梗塞で倒れ、数か月の昏睡状態の後、亡くなりました。脳梗塞で倒れた後、意思表示をすることもできず、遺言は結局作成できませんでした。夫の両親は他界し、夫の兄弟3名がBさんとともに相続人となることがわかりました。夫の兄弟の中には、行方不明となっている者、認知症の者がいました。相続人全員の印鑑が必要な預金解約手続きは、すぐにはできません。夫の入院費用で支払えていないものもありますが、預金解約できないと、ずっと支払いができません。

Bさんにとって、夫の遺言があれば、様々な困難から救われた事例でした。

 

2.遺言を作ったゆえの失敗~生前の母親の奪い合い

一般に、遺言を作ることは相続争いの予防になります。しかし、次の事例のように、遺言を作ることが、相続争いの最大の要因となることもあります。

Aさん(81歳女性)は、5年前に夫に先立たれた後、秋田県で一人暮らしをしてきましたが、最近は一人で生活することにも不安を感じるようになりました。すると、かつてあれほど同居するのを拒んできた長男夫婦がとても心配してくれて、Aさんを長男夫婦の仙台市の自宅に引き取って、同居するようになりました。

同居して半年後、長男がこんなことを言います。Aさんには長男を含め3人の子がいましたが、Aさんが亡くなった後、兄弟3人で相続争いをしてしまうのが心配なので、遺言を書いてくれないかと。Aさんは、長男の薦めに従い、遺言を書くことにしました。長男が連れてきた弁護士に遺言の起案を依頼し、同居してくれている長男が望むとおりの遺言を作成しました。

遺言を作成してから数か月も経つと、気のせいか、長男夫婦の態度が冷たくなったように思います。特に、以前は同居を頑なに拒んだ嫁の態度の変化が著しいのです。Aさんはだんだん居心地が悪くなり、東京に嫁いだ長女に、電話で愚痴をこぼすようになりました。そして、何かの拍子に長女に遺言を作成したことを話すと、長女が長男との間で、Aさんをどちらが引き取るかについて、頻繁に電話で口論するようになりました。

やがて、大阪で仕事をしていた二男(未婚)が、転職を機に、秋田県に帰郷すると言います。Aさんは、それならば二男と、住み慣れた秋田県で暮らしたいと思い、長男夫婦に伝えると、長男夫婦は頑なに拒みます。長男夫婦と同居するにあたり、実印・銀行印・通帳を全部預けていたのですが、秋田県に帰るのならばこれらを返さないと脅してきます。

長男の薦めに従い遺言を作成したばかりに、兄弟3名の思わぬ争いに巻き込まれ、翻弄されることとなりました。Aさんは、長男の望むがまま遺言を作成したことを後悔するようになりました。


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