9-7.上手な相続税対策(試算・納税準備・評価減)

9.はじめての生前相続対策

1.相続税の試算

相続税の試算をすることなく、相続税対策は始まりません。相続税専門の税理士に試算を手配しますので、当事務所までご相談ください。

以下、相続税の試算をするうえで必要な心構えをお話します。

1)相続税の上限を知る

まずは、各種特例や、不動産の評価減を使わない場合に、いくら相続税がかかるのかを確認します。次のステップの納税準備をするにあたっても重要です。

2)当代の預金から相続税が支払えるかを確認する

相続税の上限を知ったうえで、不動産を換価したり、相続人の預金から捻出したりして納税資金を確保しなくてはいけないか、検討します。

3)不動産の評価減に関する特例適用の環境を検討する

現在の生活環境において、各種特例を使って節税が達成できるかを検討します。くれぐれも、現在とは異なる環境を無理に実現して節税をはかろうとしないことが大切です。

4)不動産の換価準備

不動産を換価して納税資金を準備する場合、確定測量や接道条件の達成など、生前の時間のあるうちにやっておけることはないか、検討します。

 

2.相続税の納税資金の配慮

相続税対策でよく採用されていた方法に、借金により貸しマンションやアパートの建築をして財産評価額を下げるというものがありました。この方法には「借金の金利の上昇」や「空室」・「老朽化」といった、賃貸経営のリスクが伴います。

そういう意味では、財産評価額を下げる相続税対策ではなく、納税資金に換価できる資産、すなわち不動産を用意することによる、納税資金準備対策の方が重要でしょう。換金性を高めた資産を生前から準備しておき、相続発生後に直ちに換金することで相続税を納付しようとするものです。

換金性を高めた資産とは、すぐに売却できるような更地等のことです。というのも、換金性の高い資産であっても土地取引に時間がかかってしまうこともあります。また、譲渡所得税等の発生もあります。 物納する場合にも簡単にことが進むことはありません。しかも、物納が認められないといったケースが多く、その場合には現金で支払わなくてはなりませんし、万が一納付期限が過ぎれば、滞納税が別に課せられます。

納税義務者となる人への配慮は、資産を残す側として、必ず必要なものです。

1)納税資金が足りない場合の対策

いくつかの納税資金対策をご紹介します。ただし、先に申し上げましたように、リスクが絡むものもありますので注意が必要です。

短期的な対策としては、

① 銀行から借入する
② 死亡退職金・弔慰金を活用
③ 相続資産の売却
④ 納税資金の生前贈与
⑤ 延納・物納を利用する

などがあります。

計画的に取り組み、長期的な対策としては、

① 生命保険に加入する
② 土地活用により賃貸収入を得る
③ 賃貸用不動産を次世代に早めに譲渡する

などがあります。

どれも専門家にアドバイスを求めた方が無難な対策です。信頼できるアドバイザーを探しましょう。

2)納税資金の過不足分析

必要となる納税資金に対して、相続財産と相続人所有の金融資産(現預金・生命保険金・上場有価証券等)がいくら準備できるかを試算し、相続税を支払う能力をチェックします。不足していれば、対策が必要でしょう。

一般に、相続税の支払能力の判定は、

納税資金÷相続税×100

で求めます。

この比率が100%よりも小さければ小さいほど対策が必要です。

3)納税資金の不測の解消

納税資金の不足を解消するためには、

① 節税対策により相続税額を軽減すること
② 納税資金対策により資金を増やすこと

の両面からのアプローチが必要です。

納税資金対策では「生命保険」の活用も有用です。終身保険の有期払いで加入すれば、確実に死亡保険金を相続税の納税資金に充当できます。支払保険料は相続税の分割前払いと考えることもできます。これにより、所有土地等を譲渡または物納することなく、相続税の納税を完結させることができます。

 

3.相続不動産の評価を下げる

相続人の相続税の負担を軽くしたいと思う場合、相続不動産の評価額を下げておくことが考えられます。

換価又は利用面で一定の制限をかけることで、不動産の評価は下がります。また、家族の生活環境に一定の制限をかけることでも、相続時においてのみ一時的に不動産評価を下げることができます。

制限をかけた結果、不動産の本来的価値まで下げてしまったり、家族の人生を必要以上に束縛してしまったりしても問題なので、家族の総意として、やる価値のあることであれば、相続不動産の評価を下げてみてもいいでしょう。

下記に代表的な評価減の方法論を説明しますので、参考にしてください。

1)土地を他人に貸す

貸宅地の評価額=更地(自用地)としての評価額×(1-借地権割合)

※自用地・・・他人に貸さずに、自分で使用している宅地のことです。
※借地権割合は、路線価図や評価倍率表に表示されています。

借地権割合が0.6(60%)の地域であれば、貸宅地の価額は自用地の40%評価となります。

2)建物を他人に貸す

貸家の評価額= 建物の固定資産税評価額 ×(1-借家権割合(通常30%)×賃貸割合)

※賃貸割合は、賃貸されている各独立部分の床面積の合計÷家屋の各独立部分の床面積の合計で計算します。

建物は人に貸すことで、通常30%減となります。

3)土地に賃貸物件を建築する

貸家建付地の評価額=更地(自用地)としての評価額×(1-借地権割合×借家権割合)

※他人に貸す建物を建築した土地のことを貸家建付地といいます。

借地権割合が0.6(60%)、借家権割合が0.3(30%)の地域だと、土地の評価が18%の減額となります。

4)小規模宅地特例の適用を考える

小規模宅地の特例は、生活の基盤となる最低限必要な財産を相続税から守るため、被相続人の居住用宅地や事業用宅地のうち、一定の相続人が取得する際に、所定の面積までは通常より評価を下げるものです。最大80%の減額となります。

下記の表は概略です。適用要件は非常に細かく設定されているので、個別にご相談下さい。必要に応じて税理士をご案内します。

また、国税庁ホームページもご参照ください。

 国税庁タックスアンサーNo.4124
  「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」

宅地の状況

種類

限度面積
平成27年1月1日以降

減額される比率

居住用宅地

特定居住用宅地(居住継続)

330㎡

80%

事業用宅地

特定事業用宅地(事業継続)

400㎡

80%

特定同族会社事業用宅地(事業継続)

400㎡

80%

不動産貸付(事業貸付)

200㎡

50%

 

4.不動産の評価を減らす際の注意点

1)土地を人に貸す

土地を人に貸すとなると、そこには借地権を発生させることになります。建物所有を目的として貸した場合には、借地人には借地借家法による厚い保護があり、返してもらうことは非常に難儀となります。

相続税評価を下げるためだけに、借地権を発生させるような貸し方は避けるべきです。

2)貸家建付地とするために数億円の借金をして収益物件を建築する。

更地に収益物件を建築することは、相続税対策の定番と言えます。

しかし、そのために、ハウスメーカー・銀行・税理士に提案されるがまま数億円の借入をすることは、よく検討したほうがいいでしょう。

借金をつくってもいいのは、その後のキャッシュフローの安定性が図れるときです。

① テナントが付かない時期や、空き室が目立つ時期があっても、返済に支障がない。

② 建物の減価償却が進み、返済額に占める利息の割合が減った時期においては、費用計上できる要素が少なくなり、所得税負担が重くのしかかる。その時期においても、キャッシュアウトならない。(本収益物件において、キャッシュが回る)

3)生活環境を変えてまで小規模宅地特例の適用ができるようにする。

現在、当該特例を受けられない環境にある方が、特例の適用を受けられるように生活環境を変えることもあります。

たとえば、これまで両親と同居していなかった長男夫婦が、小規模宅地特例の適用を受けるために、両親との同居を始めるケース。これにより、嫁と姑問題が顕在化し、一家離散となるほど関係がこじれてしまうのでは、何のための相続税対策か、ということにもなりかねません。


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