7-5.相続人が行方不明の場合

7.相続を翻弄する「人」の課題

1.行方不明者がいるときは

1)行方不明者がいるときは

相続人の中に行方不明の方がいるケースが増えています。

親族同士の交流が希薄になっている現代社会において、居所がまったくわからず、行方不明者の勤め先や交友関係もまったくわからない、という状況がよくあります。このような場合に、不在者に代わって遺産分割協議をし、以後、不在者の取得した財産を管理する人を、家庭裁判所の手続きを経て選任します。

なお、行方不明者を除いて遺産分割協議をすることはできず、不動産の名義変更など重要な承継手続きはできません。預金などは、口座凍結前に全額引き出して、いる者だけで分配することも実際は可能ですが、それは違法な処分であり、後に不在者が現れて相続分を主張されれば、きちんと支払いに応じなければなりません。

2)不在者財産管理人と失踪宣告

行方不明者がいる場合に、不在者財産管理人の選任と同時に、失踪宣告の検討も必要です。

失踪宣告とは、行方不明者の死亡がある程度想定できる場合に、その者の死亡を法律上つくりだし、その者は亡くなったものとして手続きを進める方法です。

不在者の取得する財産が多額になることから、その管理の都合上、できれば失踪宣告の方法を採りたいなど、事案によっては、失踪宣告を優先して考えることがありますが、その者がある時期に亡くなったこととされることで開始するさらなる相続の問題など、いろいろと検討すべきことが多いです。

間違いなく、専門家にご相談いただくべき事案です。

 

2.不在者財産管理人選任の申立て手続き

相続人の中に不在者がいる場合、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申立てをします。

1)選任申立てにあたり準備する書面

ア)公的書面

① 不在者の戸籍謄本
② 不在者の戸籍の附票
③ 不在者財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票
④ 申立人の戸籍謄本

イ)個別的な書面

① 不在であることを証する資料

ⅰ)郵便が不到達であったことがわかる封筒
ⅱ)警察署に捜索願が受理されたことを証する書面
ⅲ)知人、元職場、隣人への聞き込み

② 不在者の財産に関する資料

ⅰ)不在者固有の財産は知らないことがほとんどなので、不在者が相続人として共有持分を有している、被相続人の遺産目録と裏付け資料がこれに当たります。

2)不在者財産管理人候補者の検討

① 親族

親族であれば、管理人報酬を想定しなくてよいです。

② 専門職(司法書士など)

家族環境によっては、専門職が管理人に就任せざるを得ない場合があります。

※後述する「帰来時弁済型の遺産分割」に落とし込めるかどうかも、候補者を誰にするかにあたり検討材料となります。

3)管轄の裁判所の検討

不在者財産管理人の選任申立ては、不在者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てます。

ただし、被相続人の財産が、不在者の最後の住所地と全く別の場所にある場合、不在者の最後の住所地の家庭裁判所で手続きを行うよりも、被相続人の財産の所在場所で手続きを行なった方が合理的なケースもあります。

このような場合は、予め、被相続人の財産の所在場所を管轄する裁判所に確認をとったうえで、上申書や調査報告書等を添付して申立てを行い、そちらを管轄裁判所とすることもできます。(もしくは、もともとの管轄裁判所に移送申立書を添付して申立て後に管轄裁判所を移してもらう方法もあります。)

4)不在者の最後の住所地が海外の場合

不在者の最後の住所地が海外の場合、戸籍の附票でたどり着ける住所地は、国名しか記載されていません。海外に行った後の足取りについて、調査をする努力が多少必要です。

この場合、外務省に対し「所在調査申込」を事前に行う必要があります。外務省の「所在調査申込」は、全て、郵送手続で行います。

この手続きは、外務省が現地で不在者の調査を行うわけでは無く、在外公館で保有している資料で、不在者の住所が判明するかどうかを、書面上でチェックする手続きです。

不在者が在外公館に連絡先等を届け出ている場合、この調査で連絡がつく場合もありますが、連絡先を届け出ていない場合には、所在が判明しなかった旨の回答が郵送されてきます。

5)予納金

不在者財産管理人選任申立てを行う場合、裁判所に予納金を納める必要がある場合があります。専門職が不在者財産管理人になるケースで、不在者の財産に金融資産がなくその報酬が捻出できず、かつ、後述する帰来時弁済型の遺産分割協議を行い管理人の職務を解くこともできない場合などが考えられます。

 

3.不在者財産管理人による遺産分割協議

家庭裁判所が、不在者財産管理人の選任審判をした後は、不在者が参加すべき遺産分割協議案の是非について判断していくステージとなります。

1)権限外行為許可の申立て

不在者財産管理人は、不在者の財産に対し、保存行為ができることになっています。一方、遺産分割協議に当事者として参加することは、当然に許されている行為ではないので、権限外の行為として、家庭裁判所に行為ごとに許可を求めることになります。

遺産分割協議案を家庭裁判所に提出し、権限外行為許可の申立てをします。

2)許容される遺産分割協議案

① 不在者の法定相続分を確保できている。

② 不動産を不在者財産管理人として管理するのは大変なので、なるべく金銭を不在者の財産となるようにしている。

③ 後述の帰来時弁済型が認められるときにかぎり、今回、不在者の取得する財産をゼロとできる。

3)帰来時弁済型の遺産分割協議とは

不在者の法定相続分相当額が、100万円前後の場合、遺産を多く取得する相続人が、不在者の取り分を不在者帰来時(不在者が実際に現れたとき)にはきちんと支払う負担を約束したうえで、便宜上、不在者の取得分をゼロとする遺産分割協議を行うことを、帰来時弁済型の遺産分割と言います。

不在者の法定相続分が1,000万円相当など、帰来時に支払うのが困難となるほどの金額の場合には、帰来時弁済型遺産分割は認められません。

その中間の金額においては、弁済義務を負う相続人が、一時払いで不在者に同金額を支払える資力があるかどうかが、成否のカギとなると思います。

4)帰来時弁済型のメリットは

不在者財産管理事件を閉じられる、これに尽きます。

不在者の管理財産がゼロになるため、遺産分割協議成立後は、管理人はその任を解かれて、終了報告をすることになります。帰来時弁済義務を負う相続人に対する監視義務があるわけではありません。

 

4.不在者財産管理人選任申立て等の料金

不在者財産管理人選任申立て等の料金

不在者財産管理人選任申立て 及び
権限外行為許可の申立て

10万円 +消費税


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