12-8.成年後見のQ&A

12.成年後見制度とその周辺契約

Q1)成年後見制度ってなんですか?

A1)成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な本人を支援し、本人の生活と権利を守るための制度です。これにより自分一人では困難な不動産や預貯金等の財産管理や各種契約が安全に行えるようになります。

 

Q2)成年後見制度にはどのようなものがあるのですか?

A2)成年後見制度は大きく分けて法定後見と任意後見に分けられます。

法定後見制度はすでに判断能力が不十分な人のために利用する仕組みです。本人の判断能力の程度やその他の事情によって後見・保佐・補助の3つに分けられます。

任意後見制度は、判断能力のあるうちに予め選んだ代理人と契約することにより、財産管理や身上監護について備えをしておく仕組みです。

 

Q3)法定後見の申立てができる人は誰ですか?

A3)法定後見の申立ては誰でもできるわけではなく、本人・配偶者・四親等内の親族・市町村長などに限られています。

 

Q4)法定後見人に選任されたらまず何をしなくてはならないのですか?

A4)後見人候補者には、事前に成年後見に関する手引きを熟読するように促されますが、選任後においても、家庭裁判所からはじめの動き出しについての案内文書が届きます。

まず、それぞれの調査対象機関に対して、審判書及び確定証明書、または登記事項証明書、そして自身の運転免許証等を提示し、法定後見人(後見人・保佐人・補助人)であることを証明し、財産調査を開始します。

金融機関であれば、各金融機関の窓口で、本人の名前と生年月日で名寄せをしてもらうと、その金融機関の支店にある財産を確認することができます。住所は、現在の住所だけでなく、口座開設当時の住所の情報がわからないと、照会が完結しないこともあります。(ゆうちょ銀行は、全国の支店の現存照会をかけることができます。)

不動産については、市町村の資産税課で固定資産課税台帳兼名寄帳の交付請求をすると把握できます。また、不動産が登記されている場合は法務局で確認することができます。

問題は現金や有価証券などです。本人やご家族と協力して探す必要があるでしょう。本人の財産が把握できたら財産目録を作成します。

次に、本人の収入と支出、つまり収支を把握する必要があります。

収入については、行政窓口で所得証明を取り寄せたり、就職先から交付される源泉徴収票にて確認したりします。また、行政の窓口や社会保険事務所で、国民年金または厚生年金の受給状況を調べることができます。年金は偶数月の15日に定期的な入金があるので、預金通帳があれば把握が早くなります。

支出については本人やご家族に聞いたり、自宅の領収証や請求書を調べたりできますが、口座からの自動引き落しの場合で、どこに支払われているかわからないときは、金融機関に教えてもらうことができます。

介護状態や心身の状態を確認し、身上監護の計画についても裁判所に報告します。時間が足りない場合には家庭裁判所の担当書記官に相談してください。

 

Q5)成年後見人はどのようなことをするのですか?

A5)財産管理と身上監護のそれぞれに関する法律行為をします。

財産管理に関する法律行為として、後見人が、本人の預貯金の管理、不動産などの処分、遺産分割など、財産に関することについて支援します。本人のために必要な支出を計画的に行います。

身上監護に関する法律行為として、介護・福祉サービスの利用や医療・福祉施設への入退院手続き、それに伴う費用の支払いなどをはじめ、日常生活にかかわる法律行為の支援をします。

その他、一部の事実行為ができます。

後見で「事実行為」というときは、代理権目録に記載された法律行為以外の行為で、主に法律効果の発生しない、本人の日常生活に寄り添うにあたり必要性のあるものをいいます。そうした事実行為であっても、「代理のために必要な範囲」において、後見人が行うことができます。

一方、日用品の購入のほか、入浴介助・食事の世話・清掃・実際の介護等の事実行為は、代理のために必要な範囲ではないので、後見人としてサポートができません。

 

Q6)任意後見制度ってなんですか?

A6)判断能力が不十分になってから裁判所が選任するのが法定後見制度で、判断能力の衰えに備えて、判断能力の十分なうちに自分の将来を託す人物と契約を交わしておくのが任意後見契約です。頼れる身内がいない方のご利用のほか、知的障害を持つお子様を持つ親御様が、自身に万が一のことがあった場合に備えて、お子様のために法定代理人として任意後見契約を交わしておくなどの利用も考えられます。

任意後見契約は、「公正証書作成」で作成します(自作の契約書などでは無効です)。 また任意後見契約は、一度取り決めたら変更や解除(取り止め)ができないものではありませんが、契約の内容を変更したい、契約そのものを取り止めたいというときは、同じく公正証書で行わなければなりません。

任意後見人の任務開始時期は、本人の判断能力が衰えたときで(任意後見監督人の選任をすることで、効力が生じます)、本人が死亡したときに終了します。

なお、任意後見制度での家庭裁判所の関与は、本人があらかじめ選任しておいた任意後見受任者を正式な任意後見人と認め、家庭裁判所が選任した任意後見監督人を通じて監督するにとどまります。

 

Q7)浪費者は成年後見制度を利用できますか?

A7)浪費者は成年後見制度を利用することはできません。成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などで判断能力が低下している人を保護するための制度だからです。

ちなみに、以前の禁治産制度では浪費者も準禁治産者として保護されていました。

これは、禁治産制度が家制度の思想を背景にもち、もっぱら家財の維持という考え方に基づいていたからでした。一方で、成年後見制度では家制度の思想は排除されて個人主義の考えに基づくようになり、浪費者は利用対象者から外れました。

 

Q8)成年後見制度を利用すると戸籍に載ってしまいますか?

A8)以前の禁治産制度ではその旨が戸籍に載ってしまっていましたが、成年後見制度ではその旨が戸籍に載ることはありません。

その代わりに東京法務局に登記されて本人や成年後見人などから請求があれば登記事項証明書が発行されます。

 

Q9)家庭裁判所に法定後見の申立てをして、後見人が選任されるまでの期間と費用はどのくらいかかりますか?

A9)期間は一般的には期間は2~3か月というところでしょう。状況においては、1か月足らずで選任してもらえる場合もあります。

費用は切手、印紙代で5,000円~1万円です。ただし、鑑定を要する場合(家庭裁判所判断)は別途、鑑定費用が10万円前後必要になります。また、申立てを司法書士に依頼すると別途、報酬が必要です。

 

Q10)法定後見制度のデメリットはなんですか?

A10)法定後見制度を利用すると、後見、保佐、補助のいずれかにもよりますが、会社の取締役に就けなくなったり、弁護士や司法書士、医者等の一定の資格に就けなくなったりという資格制限があります。

なお、成年後見制度を利用してもその旨が戸籍に記載されることはありません。

 

Q11)法定後見の申立ては自分でできますか?

A11)法定後見の申立てはそれほど難しいものではありませんので、司法書士等の専門家に頼まなくてもできないことはありません。ただし、そもそもお客様家族の課題は、成年後見制度で解決できるか否かの判断が必要で、後見人が就いてからこんなはずではなかったと公開される方が続出しています。

司法書士のその点をご相談され、申立てまでお任せいただくことをお勧めします。

 

Q12)後見事務の方針と年間の支出の予定を立てなくてはなりませんが、どんなことに注意すべきでしょうか?

A12)財産調査、身上調査などをしっかり行い、定期の収入、定期の支出、負債等の経済状況を把握し、近いうちに多額の収入や出費が見込まれる場合は、それらを見越して予定を立てることです。

 

Q13)被後見人の収入・支出の管理をするにあたり、銀行預金、郵便貯金等の管理についてどのようにしたらよいか、管理の方法を教えてください。

A13)本人名義の口座について、後見開始の届出を行うことで、以後、本人による払戻しは不可となり、後見人のみが払戻しや送金ができる立場となります。後見人の届出は金融機関内部の処理であり、個人情報ファイルの変更がされることはなく、財産権は本人に帰属します。

通帳も、本人の通帳に対し手書きで「成年後見人B」と書き加えるだけの措置が一般的です。送金名義や引落名義は、「本人A成年後見人B」のように連名とすることが多く、受け入れ(他者に本人に対する送金を依頼する)の場合には、Aのみの名義で手続きをしても着金します。

届出には、登記事項証明書(または審判書及び確定証明書)、そして後見人の運転免許証等身分のわかるもの、届出印が必要で、金融機関によっては、後見人の実印及び印鑑証明書が必要です。従来のキャッシュカ-ドを引き続き使用できる場合もあり、その際、後見人により暗証番号を再登録します。

 

Q14)不動産の管理について注意しなければならないのは、どういう点でしょうか?

A14)財産管理の委任を受ける場合、有償無償を問わず、受任者の職業、地位、能力、生活状況等から判断し、社会通念上の注意義務が課せられ、受任者は、自分自身に対する注意義務よりも、高度な注意義務が要求されるということが民法第644条に規定されています。原則的には契約書どおりの履行と、社会通念上本人に損害を与えない程度の管理処分行為を行わなくてはなりません。

また、居住用不動産の売却は裁判所の許可を得て行なう必要があります(民法第859条の3)。生活の状況への影響が大きく、十分な配慮が求められるからです。なお、居住用不動産とは、現在住んでいる不動産のみでなく、過去一度でも住んだことのある不動産が含まれます。

 

Q15)後見人に選任されたあと判断に迷う場合はどこに相談するのですか?

A15)判断に迷ったときは家庭裁判所の担当書記官と相談してください。ただし、自分なりの答えを持ち合わせずにアドバイスをもらおうとしても、裁判所は対応しません。原則として、後見人が職務に照らし、自身で最適解を出していくことが求められているからです。一応の解答を出したうえで質問をすると、極端に不適切な場合でいない限り、家庭裁判所は認容すると思います。

 

Q16)成年後見制度の報酬について教えてください。

A16)法定後見人(後見人・保佐人・補助人)の報酬は裁判所が決定するのですが、もともと本人の暮らしを守るための制度ですから、裁判所が本人の生活に大きな影響を与えるような報酬を決定することはありません。

報酬は本人の財産から捻出することとなります。

 

Q17)任意後見と法定後見をいっしょに利用することはできませんか?

A17)すでに任意後見契約を結んでいる方が、さらに法定後見制度を利用することはできません。任意後見契約による支援が優先されます。

しかし、任意後見契約による支援内容では不十分で本人の支援が行えない場合など、家庭裁判所が本人の利益のために特に必要があると認めた場合には法定後見制度を利用することができます。取消権が必要になった場合などがそれにあたるでしょう。法定後見制度による支援が始まると、任意後見契約は終了します。


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