2-2.遺産分割協議書の作り方

2.遺産分割協議

遺産分割協議書には作る際のポイントがあり、独特の注意点も多いです。

相続人全員が協力して作るものであり、ポイントを誤ると相続人全員で作り直す必要があります。一からやり直しとなってしまうことのないように、作成する際は専門家に相談し、支援してもらうことをお勧めします。

 

1.遺産分割協議書の作り方~基本

1)形式

① 用紙

紙の大きさ・種類に制限はなく、原稿用紙・便箋・コピー用紙でも構いません。

② 作成手段

パソコンを使って作成しても構いませんし、手書きでも問題はありません。

③ 筆記具

手書きの場合は、ペンなどの消せないものが望ましいです。

2)記載内容

① 財産の分配方法の書き方の基本

「誰が」「どの財産を」「どれだけ取得するか」を明確に記載します。

② 不動産の表示

土地は所在・地番・地目・地積を、建物は所在・家屋番号・種類・構造・床面積を、登記事項証明書の通りに記載します。マンションなどの区分建物はさらに記載内容に注意が必要です。

③ 預貯金

金融機関名、支店名、預金の種類、口座番号を正確に記載します。

④ 日付

遺産分割協議書の日付は、遺産分割の協議をした日を明確に記載します。

なお、遺産分割協議は必ずしも一堂に会して行う必要はなく、全員が合意している内容の協議書を郵送による持ち回りで署名・押印するという形をとっても良いです。その場合、最後に署名した人が日付を記入するといいでしょう。

3)署名と押印

① 署名

住所と氏名は、なるべく印鑑証明書に記載されているとおりに記載します。

② 実印押印

署名した欄に実印を押印します。原則として印鑑証明書を添付して手続きをするためです。実印は、鮮明に押す必要があります。

③ 契印

遺産分割協議書が複数ページにわたるときは、相続人全員の実印で契印します(ページの継ぎ目にまたがるように押印します)。

④ 印鑑証明書の添付

押印した実印の印鑑証明書を添付します。金融機関提出用は、6か月以内などの発行期限があることが多いです。

 

2.遺産分割協議書の作り方~発展

1)財産の記載関係

① 後日発見された遺産

記載漏れがあっても、改めて遺産分割協議をしなくて済むように、発見資産を、どのように分配するか決めておくことがあります。

一方で、後日発見された資産は、その際に再度遺産分割をする旨を記載しておくこともあります。

② 祭祀財産

祭祀財産とは、家に伝わる系譜・祭具・墳墓のことで、相続の対象とならず、祭祀主宰者が承継します。しかし、遺産分割協議の中で合わせて承継者の取り決めをしておくことは多く見られます。

③ 債務(少額で支払い済みのもの)

債務の引受けを遺産分割協議書に記載することは可能です。租税公課や未払い医療費などを記載するのが一般的です。これらは、相続開始後、すでにその引受人が支払いを済ませて、協議日には消滅していることが多いものです。消滅はしていますが、相続開始日における資産と債務の承継について決定するのが遺産分割協議なので、記載します。

④ 債務(多額で支払いが続くもの)

一方で、事業用債務や、収益不動産建築費用のローンなど、債務の額が多く、これから数年以上にわたり支払いをしていくものがあります。

民法上、債務は法定相続分に応じて相続人に当然に承継され、相続人間で合意したとしても、債権者の承諾無くして、その合意は有効にはなりません。遺産分割協議に記載するのは自由ですが、その後、各金融機関など債権者との間で、相続人の一部の人が引き継ぐことの承諾を得る手続きをする必要があります。

2)人物関係

① 相続人に行方不明者がいる場合

全ての相続人が参加しないと、遺産分割協議は有効に成立しません。

相続人に行方不明者がいる場合、家庭裁判所に不在者財産管理人を選任する必要があります。

>>相続人が行方不明の場合 について詳しくはこちら

② 相続人が未成年の場合

未成年者に代わり法定代理人(通常は親権者)が遺産分割協議に参加する必要がありますが、多くの場合、その法定代理人も同じ相続人の立場となり、利益相反の問題が生じます。

この場合には、家庭裁判所に特別代理人の選任申立てを行う必要があります。未成年者である相続人が複数いる場合は、それぞれ別の特別代理人が必要です。これら手続きが煩わしい場合、未成年者が成年に達するのを待ってから遺産分割協議をする道を選択することもあります。

>>相続人が未成年の場合 について詳しくはこちら

③ 相続人に認知症などの精神上の障がいを持っている人がいる場合

遺産分割協議に耐えられる判断能力がない場合には、成年後見制度の利用を検討する必要があります。署名と実印押印があって遺産分割協議書の体裁をなしたとしても、判断能力がない状況で作成した遺産分割協議書は無効です。

>>相続人が認知症の場合 について詳しくはこちら

④ 相続人に胎児がいる場合

胎児にも相続権利が認められています。したがって、遺産分割協議を急ぐ理由があるときは、未成年者と同じく、特別代理人を選任して遺産分割協議を行うことは可能です。

しかし、胎児が元気に生まれてくることの保障はないので、急ぐ事情がなければ、遺産分割協議は胎児が生まれてから行うのがいいです。

>>遺産分割協議のQ&A>Q1 について詳しくはこちら

⑤ 相続分の譲渡をした場合

相続人の一人が遺産分割前に、相続人ではない人に相続分の譲渡をした場合は、遺産分割協議にはその譲り受けた人を必ず参加させなければなりません。

>>詳しくは 相続分の譲渡 のページをご覧ください。

3)形式

① 遺産分割証明書という形式

遺産分割協議は必ずしも一堂に会して必要はないというのは前述しましたが、持ち回りで一枚の協議書を作成する方法のほか、まったく同じ協議内容の書面を個別に手配し、相続人各自が署名・押印する「遺産分割証明書」という形をとってもいいです。

この場合、全員分を揃えると遺産分割協議書と同様の効果を発揮し、法務局や金融機関など各手続機関でも受け付けてもらえます。

② 作成部数

遺産分割協議書の作成部数は、相続人の人数分を作成するといいです。

その他、提出する手続機関ごとに個別に作成すると、各手続きを一度に進められる利点があります。この場合、戸籍一式を手続機関ごとに準備する必要がありますが、平成29年5月より開始された「法定相続情報一覧図」を利用すると、戸籍一式は一部で済みます。

>>法定相続情報証明制度 について詳しくはこちら

このように、遺産分割協議書の作成は非常に奥が深いものです。書籍やインターネットで得た知識で、ご自身で作成して当事務所に持ち込まれるお客様がときどきいらっしゃいますが、ある視点が抜け落ちるなど、僭越ながら満点の遺産分割協議書に出会ったことはありません。作成は当事務所までご依頼されることをお勧めします。


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