7-4.相続人が認知症の場合

7.相続を翻弄する「人」の課題

1.成年後見制度利用の検討場面

相続人の中に、判断能力が不十分な方がいるケースが増えています。統計によると、認知症の発生率は75歳で7%であるところ、85歳になると27%ほどに跳ね上がります。また、統合失調症などの精神疾患をお持ちの方も全人口の1%ほどいらっしゃるということです。

このような方の権利を保護し、遺産分割協議の合法的に行うには、成年後見制度の利用が検討されます。

なお、認知症の方に代わって、家族が遺産分割協議書に漫然とその方の署名をし、実印押印をすることは、非常に問題があることを最初に申し上げておきます。そのうえで、いろいろ検討事項がありますので、下記の記事に目を通してみてください。

 

2.認知症の程度による

※ここからは、判断能力の低下している方を、認知症の方に限定してお話していきますが、すべての症状の方に同様と考えていただいてよいです。

1)紋切り型の判断はしない

認知症の方がいる場合、遺産分割協議は絶対にできないわけではありません。

遺産分割協議を慎重に考えている方が最初に誤解されているのはこの点です。当事務所にご相談があった場合、まずはご本人に会わせてくださいと、初めにお願いしています。ご本人の判断能力の程度によっては、成年後見制度を利用せずとも、遺産分割協議ができる余地があります。

2)当事務所の判断基準

当事務所は、認知症を専門とする精神科医ではありませんので、医学的な見地からの判断はしません。もちろん、場合により、主治医や精神科医の医学的見地からの診断書を参考資料としてもらうことはあります。しかし、それを全く参考にしないわけではありませんが、盲目的にそれに従うわけでもありません。

あくまで、実務的な視点から本人自身による遺産分割協議の成立の是非・可否を見ていきます。

なお、このページの記事については、本記事の執筆現在の所見であること、また、一般論として拡大した所見ではないことをお伝えし、あくまで、執筆した私(当事務所代表)の一私見として、ご参考として留めてください。

本人と実際に会い、会話をした際に、次の視点を重視しています。

① 被相続人が亡くなったこと、相続人が自分であること、相続のために手続きが必要なこと、以上3点について、理解している。

② 不動産、預金など、財産の性質と量をおよそ把握し、これを遺産分割することの重要性について、理解している。

③ 記憶が点ではなく、線でつながり、相続手続きをしている間、本人の見識に一貫性がある。

これらの基準は、認知力の低下、短期記憶の低下が生じている軽度の認知症の状況にあっては、それなりに厳しい基準であると考えています。

この基準を、窓口となっている相続人の方に説明すると、「それなら大丈夫かも」もしくは「それは難しい」と、比較的容易に回答をいただき、かつ、実際に本人にお会いした時の印象が、大きく異なるところはありませんので、実務的に確実性のある判断基準であると、個人的には考えています。

 

3.成年後見制度の利用

2の基準で、本人による遺産分割協議が難しいとなった際には、成年後見制度の利用を検討します。

1)利用する場合

利用するにあたっては、次の視点で検討します。

ア)遺産分割内容が、認知症の方にとって不利なものではないか

今回の相続の窓口になっている方が想定している遺産分割協議の内容が、たとえば、次のようなものとします。

① 相続財産は自宅くらいだが、認知症の母は施設に入る予定なので、自宅は長男である自分が相続しておき、いざというときに簡単に売却できるようにしたい。

② 長男が自宅を相続するとしても、母の法定相続分を代償金で確保するつもりもない。

このような場合、成年後見人を就けると、想定どおりの遺産分割協議を成立させることは、まずできません。

イ)成年後見人の任務は、本人が亡くなるまで続くことを理解しているか

ご相談者の中には、遺産分割協議をするためだけに成年後見人が就任すればよいとお考えの方がいます。遺産分割協議は、あくまで成年後見人を付けるきっかけになったにすぎなく、成年後見人の任務は、認知症の本人が亡くなるまで継続することになります。

>>後見申立ての動機と後見人の執務姿勢との齟齬 についてもご参照ください。

2)利用しない場合

1)の視点で検討したときに、今、成年後見制度を利用して、相続手続きを続けることが難しいとの判断に至ることもあります。

そのような場合、当事務所では、認知症の方が亡くなるまで、相続手続きを延期することを提案することもあります。

もちろん、相続手続きは、できるときにやっておいた方がよいというのが当事務所の基本的な助言スタンスですが、場合によっては、あえて先延ばしの選択肢をご提示することもあります。

 

4.当事務所の成年後見利用診断

以上のように、成年後見制度の利用の是非、そして可否には、多くの論点がございます。

当事務所では、目の前の相続手続き業務を受任したいがゆえに、成年後見制度の利用を無理強いするような助言はいたしません。

皆さまの今後の生活や、家族関係を考慮しながら、今、成年後見を利用してでも相続手続きを進めるべきか、俯瞰的な視野で助言し、支援させていただいております。

ぜひ一度、当事務所までご相談ください。

>>法定後見制度 について詳しくはこちら

 

成年後見申立ての料金

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