2-6.相続分の譲渡

2.遺産分割協議

相続分の譲渡、という特殊な遺産の分割方法をご説明します。

 

1.相続分の譲渡とは

1)民法では

民法で、相続分の譲渡を直接規定した条文はありませんが、相続分を譲渡できることを前提として、民法905条に、ある相続人から第三者に相続分が譲渡された場合に、他の相続人は、価額及び費用を償還してそれを取り戻せるとする規定があります。

2)相続分の譲渡の特徴

相続分の譲渡の特徴は、

「相続人としての地位を、相続人または相続人以外の者に譲渡すること」

となりますが、実務的な視点で掘り下げると、

① 相手が相続人であれば、自分の法定相続分の譲渡と同義になる。

② 相手が相続人以外の者であれば、相続人として遺産分割協議に参加できる権利を、法定相続分の割合で譲渡すること。

と言えます。

 

2.相続分の譲渡の活用場面

相続分の譲渡、という特殊な方法を用いる活用場面をお話します。

1)遺産分割協議が長引くケース

たとえば、次のような相続のケースです。

被相続人 父X
相続人 母Y
相続人 長男A(遺産の多くを継ぐ意向)
相続人 二男B
相続人 長女C

父Xの相続人関し、母Y、長男A、長女Cの3名は、Aが遺産の多くを継ぐことに合意ができているとします。二男Bだけが反対しており、遺産分割協議自体にまったく非協力的であるとします。

このまま協議がまとまらない場合のリスクは次のとおりです。

 

① 母Yが亡くなった時、母Yが持つ未分割共有持分が、二男Bにも法定相続で分配され、結果的に父Xの相続についての二男Bの法定相続分が増える。具体的には、6分の1から4分の1に増える。

② 長女Cが亡くなったら、長女Cの相続人(夫や子)が新たな相続人となり、協力を募ることになり、長男Aが遺産の多くを取得することに合意してくれるかわからない。

 

このようなとき、長男Aに協力の意向を示している、母Y(法定相続分6分の3)と、長女C(法定相続分6分の1)について、その相続分を長男Aに譲渡しておくとよいです。

これにより、長男A(法定相続分6分の5)と二男B(法定相続分6分の1)という条件で、時間をかけて遺産分割協議をしていけばよい素地ができます。

2)相続人ではない方が、故人の晩年を支えたケース

たとえば、次のような相続のケースです。

被相続人 母Y Yは父Xと離婚
相続人 長女A 幼いころに母Yと離別
親族 母の妹O Yの晩年を支えた。Yの兄弟姉妹はOのみ

長女Aは、母Yの子ですから、第一順位の相続人です。Yの妹Oは、Aの存在を知らず、身寄りのないYの晩年を看てきました。Yの相続人は、第三順位ではありますが、たった一人の妹である自分だと、Oは思っていました。

ところが、戸籍の調査をしてみると、長女Aの存在が判明し、Oは相続人ではないので、Yの預金解約など、相続手続きができないことがわかりました。しかし、Aに連絡をとってみると、遠方に住んでいることがわかり、Yの預金解約をはじめ、Yの住居・遺品の後始末や墓守を、Oにお願いしたいと言います。

ただし、Aとしては相続放棄をする気持ちはありません。幼いころにYと離別したと言え、相続放棄をすることで、法律上、Yの相続人でなくなることにはしたくありませんでした。

 

そこで、長女Aから、母の妹Oに対し、相続分の一部譲渡をしてもらいました。

Oも相続人の一人として、Yの各相続手続きを進められる素地を作りました。預金については、AとOとで遺産分割協議を行い、各環境に配慮して公平に分けました。

 

3.相続分の譲渡の注意点

1)相続人以外の者への相続分の譲渡は、贈与税がかかる

相続人でなかった方に相続分を譲渡すると、無償で相続人としての地位(財産の分け前を得る地位)を得たことになり、贈与税が課税されます。

前記の「相続分の譲渡の活用場面」の2)で見たとおり、贈与税の課税を受けても、あえて実施する意義はありますので、悪いことではないのですが、この点についての配慮は必要です。

2)債務からは解放されない

相続分の譲渡は、相続人の地位の譲渡、という書き方をしていますが、相続放棄のようにはじめから相続人でなかったものとみなされるわけではありません。

遺産分割協議で、自分は何も財産を取得しないものとする内容に署名するときと同じような立場ですので、債権者から、故人の債務について法定相続分の請求を受けることにはなります。

相続の中心人物に債務の承継がきちんとされる保証がないのでれば、安易に相続分の譲渡をすることはお勧めしません。

3)過去、すでに遺産分割協議をしている場合

被相続人の遺産分割協議の多くが、すでに終了しているとします。後日、当時判明していなかった財産の遺産分割協議をするにあたり、人間関係のこじれから、2の1)の事例のように、相続分の譲渡を活用することを思いついたとします。

しかし、結論からいうと、このような場面で、相続分の譲渡をすることはできません。なぜなら、相続分の譲渡とは、ある相続財産についてのみ行うことはできず、「相続人としての地位の譲渡」を行うことなので、すでに遺産分割協議の多くが終わっているとすると、過去の遺産分割協議において行使した「地位」はどうなるのか、という問題があります。

この点、判例実務で結論は出ていないと思いますが、すでに協議をしていた場合には、相続分の譲渡はできない、とお考えください。


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