9-1.円満相続の準備
1.円満相続に臨む心構え
1)相続は、子育ての集大成です
譲る心と感謝の気持ち、相続問題を軟着陸させるに最も必要なものです。故人が遺した財産に感謝するとき、自ずと譲る心が芽生えます。権利を主張すればいいというものでもありません。相続問題は、譲ったかたが幸せになります。
そんな真理を知っているのでしょうか、譲る心と感謝の気持ちを予め備えたお子さまたちならば、何の憂いもなく円満相続です。しかし、その答えが出るのは、残念ながら私たちが旅立ったあとです。
2)本当に遺すべきは財産ではなく、ご家族の心の安寧です
財産の多寡にかかわらず、相続争いは起きます。相続財産の大部分を分割困難な不動産が占めていることと、戦後に築かれた個人の平等意識が原因です。
遺言があれば、未然に防げるご家族の混乱が多々あります。生前贈与で、分割方法の道をわかりやすく示すことも可能です。生命保険で、代償分割の代償金を中心人物に残してやれることもできます。生前の準備は、少しの労力で抜群の効果があるのが嬉しいです。ご家族の心の安寧にも責任を果たして、大往生といきたいところです。
3)想像力がご家族を救います
ご自身が旅立つ時のこと、そして旅立った後のことを想像できないのが人間です。ただ、人は必ず死に、その死がいつやってくるかわかりません。交通事故に遭う可能性、自宅が火災になる可能性、企業ならば個人情報が漏れる可能性、取引先が倒産する可能性など、人はいろいろなリスクを想定し、保険に入るなどして備えています。ただ、それが100%起きて、かつ、その時が不定期であるという、ある意味最もリスクの高い自らの死に対してしっかり備えている方は非常に少ないです。
生命保険に入っているから大丈夫です、という方がいらっしゃいます。しかし、相続はお金だけで解決できる問題ではありません。また、仮に生命保険だけに言及するとしても、それぞれの環境により、最適な契約者・被保険者・受取人の組み合わせがございますから、相続対策の中で見直しを検討するべきです。
自らの死を考えたくないお気持ちはわかりますが、ご自身の想像力が、ご家族を救います。
2.ケース別~相続への備え
1)相続人間の感情・考え方のズレに対する備え
相続人は、それぞれの人生を歩んでいます。故人との関係も様々で、幼少時・青年時の記憶も様々です。自分だけが抱えている不公平感、他の相続人に対する歪な感情など、遺産分割協議を紛糾させる要素は実にたくさんあります。
そんな相続人間の感情・考え方のズレに備えるのに、遺言は絶大な効果を発揮します。
2)贈与は、生前実施という意思の表示
贈与は、相続税対策のためだけにするものではありません。
遺言よりも先に、特定の財産を特定の相続人に継ぐことを表明する意味合いがあります。自分が元気なうちに、他の相続人に対しても、自分の意思をきちんと伝える結果になります。
3)健全に財産管理を行うことが、相続人トラブルの予防になる
親と同居している子どもが、親の財産を杜撰に管理していることがあります。使い込みを疑われ、後日、相続人間でトラブルになります。
一人で財産管理をすることが難しくなった場合には、一般的には、成年後見制度を利用して、家庭裁判所の監督のもと、健全に財産管理をするとよいです。
4)新しい財産管理・財産承継の制度で、既存対策の課題に風穴を開ける
現代の相続問題は、次の事情により実に様々な課題を抱えていることが多いです。
① 法定相続をベースとする平等意識へのこだわり
② 子どもがいない(すなわち、次世代の支援者がいない)方の増加
③ 長寿により、健康寿命を過ぎ介護を必要とする方の増加
相続対策の真打ちとして注目されている民事信託(家族信託)。信託制度が、他の制度より優越する場面は多々あります。上手に利用すると、他の制度では解決できない課題も解決できます。
>>上手な民事信託(家族信託)の利用方法 について詳しくはこちら
5)生命保険の使いみち
円満相続の実現手段として、やはり現金は重要な位置づけとなります。納税資金になるのはもちろん、遺産分割の偏りを代償金として保全する場合も使えます。
6)納税資金の確保
不動産に偏った財産構成の中で、納税資金をどのように確保するのかは重要です。処分するのに課題が多い不動産がいくつかある中で、処分性に優れているのが自宅のみという場合で、自宅に住み続ける必要のある相続人がいるのに、自宅を売却しないと納税資金を確保できないとなると大変です。
納税資金をどこから捻出するかを想定しておくのも、円満相続の準備に必要なことです。