10-5.公正証書遺言
公証人の作成する文書を公正証書と言い、公証人が遺言者の口述をもとに作成する遺言を、遺言公正証書と言います。
ちなみに、公正証書としては、「遺言公正証書」が正式名称です。本サイトでは、遺言の種類分けに注目して、自筆証書遺言、公正証書遺言、という語の並びで解説します。
1.公正証書遺言のメリット
1)公文書として強力な効力をもつ
自筆証書遺言だと、遺言者が、誰かの影響を受けて遺言を書かされたなど、健全な作成環境について疑問を呈されることがあります。
一方で、公正証書遺言では、公証人が、遺言者の真意に基づくかも確認するので、そのような心配が軽減されます。
遺言の効力を争いそうな相続人がいるときは特に、遺言作成時の遺言者の意思能力の担保として、公正証書遺言が期待されます。
2)形式の不備はなく、不明確な内容にもならない
公証人が作成に関与するので、執行の不可能な内容になることはありません。
3)家庭裁判所での検認手続きが不要
家庭裁判所での検認手続きが不要なので、遺言者の亡き後、すぐに遺言の内容を執行できます。
遺言の効果を争う余地のある相続人がいて、法定相続分による相続登記を先に申請されるおそれがあるときなどに、迅速な手続きが奏功します。
★平成30年3月に通常国会に提出された民法改正案(相続関係)
自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の創設
新制度が創設され、保管制度を利用した自筆証書遺言の場合、家庭裁判所での検認手続きが不要となるようです。
4)他の相続人に知られることなく遺言執行ができる
自筆証書遺言だと、家裁からの検認のお知らせや、金融機関からの照会があります。一方、公正証書遺言であればこのようなことが行なわれないので、他の相続人に知られずに遺言の執行ができます。
5)原本は公証役場に保管されるため、紛失・変造の心配がない
作成された原本は、原則として20年間公証役場に保管されます。20年間の期間が経過した後でも、特別の事由により保管の必要がある場合は、その事由がある間は保管されます。実務の対応としては、20年経過後も原本を保管しているのが通常です。仮に、作成時に交付された遺言公正証書正本(または謄本)を紛失したとしても、公証役場に再発行を依頼することで事なきを得ます。
★平成30年3月に通常国会に提出された民法改正案(相続関係)
自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の創設
自筆証書遺言も、管轄の法務局に保管できるようになることで、紛失・変造の心配は無くなる見込みです。
6)遺言の存否について検索ができる
公正証書遺言は、日本公証人連合会が運営する検索システムに登録され、全国どこの公証役場でも検索でき、その有無は容易に確認できるようになっています(平成元年以降に作成さ入れた遺言に限ります)。
ただし、検索できる者は相続人等の利害関係人に限定されており、また、利害関係人であっても、遺言者の生前は、公正証書遺言の閲覧または謄本の請求をすることができません。
★平成30年3月に通常国会に提出された民法改正案(相続関係)
自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の創設
親切の保管制度により保管されている自筆証書遺言について、相続人等(「関係相続人等」)は、遺言者の死亡後であれば、遺言書情報証明書の交付や遺言書の閲覧を請求できるようになる見込みです。
そして、何人も、遺言書保管事実証明書(遺言書の保管の有無、遺言書の作成年月日、遺言書保管所の名称及び保管番号を証明した書面)の交付を請求できるようです。
2.公正証書遺言の制限
1)証人がいる
公正証書遺言作成の際には、2名以上の証人立会いが必要です。
証人には、未成年者、推定相続人、受遺者及びその配偶者、及び直系血族はなれません。また、公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人もはなれません。
ア)当事務所に公正証書遺言の作成支援を依頼した場合
当事務所の代表司法書士と、ご支援担当司法書士の2名により証人となるのが一般的です。
イ)専門職事務所に依頼せずに、自ら公証人とやりとりをした場合
利害関係のある親族に証人を頼めないので、公証役場に証人手配の依頼をすれば、登録簿から証人を見繕ってくれます。定職を持たない、社会的役割を全うした年齢の方が一般的です。
2)公証人手数料がかかる
当事務所にご相談される場合でも、当事務所のご支援報酬以外に、公証人の手数料がかかります。
公証人の遺言作成手数料は、財産価額と、相続させたい(遺贈したい)方の人数により大枠が決まり、作成した公正証書の枚数による加算があります。
以下、日本公証人連合会のウェブサイトより引用します。
ア)法律行為に係る証書作成の手数料
目的の価額 |
手数料 |
---|---|
100万円以下 |
5,000円 |
100万円を超え200万円以下 |
7,000円 |
200万円を超え500万円以下 |
11,000円 |
500万円を超え1000万円以下 |
17,000円 |
1000万円を超え3000万円以下 |
23,000円 |
3000万円を超え5000万円以下 |
29,000円 |
5000万円を超え1億円以下 |
43,000円 |
1億円を超え3億円以下 |
4万3,000円に5,000万円までごとに1万3,000円を加算 |
3億円を超え10億円以下 |
9万5,000円に5,000万円までごとに1万1,000円を加算 |
10億円を超える場合 |
24万9,000円に5,000万円までごとに8,000円を加算 |
遺言公正証書の作成手数料は、遺言により相続させ又は遺贈する財産の価額を目的価額として計算します。遺言は、相続人・受遺者ごとに別個の法律行為になります。数人に対する贈与契約が1通の公正証書に記載された場合と同じ扱いです。
したがって、各相続人・各受遺者ごとに、相続させ又は遺贈する財産の価額により目的価額を算出し、それぞれの手数料を算定し、その合計額がその証書の手数料の額となります。
例えば、総額1億円の財産を妻1人に相続させる場合の手数料は、上記の表により、4万3000円です(なお、下記のように遺言加算があります。)が、妻に6000万円、長男に4000万円の財産を相続させる場合には、妻の手数料は4万3000円、長男の手数料は2万9000円となり、その合計額は7万2000円となります。
ただし、手数料令19条は、遺言加算という特別の手数料を定めており、1通の遺言公正証書における目的価額の合計額が1億円までの場合は、1万1000円を加算すると規定しているので、7万2000円に1万1000円を加算した8万3000円が手数料となります。
次に祭祀の主宰者の指定は、相続又は遺贈とは別個の法律行為であり、かつ、目的価格が算定できないので、その手数料は1万1000円です。
遺言者が病気等で公証役場に出向くことができない場合には、公証人が出張して遺言公正証書を作成しますが、この場合の手数料は、遺言加算を除いた目的価額による手数料額の1.5倍が基本手数料となり、これに、遺言加算手数料を加えます。
この他に、旅費(実費)、日当(1日2万円、4時間まで1万円)が必要になります。作成された遺言公正証書の原本は、公証人が保管しますが、保管のための手数料は不要です。
イ)証書の枚数による手数料の加算
法律行為に係る証書の作成についての手数料については、証書の枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚(法務省令で定める横書の証書にあっては、3枚)を超えるときは、超える1枚ごとに250円が加算されます(手数料令25条)。