10-6.遺言書の保管と遺言執行
1.遺言書の保管
1)遺言の種類別の保管方法
ア)公正証書遺言
公正証書遺言は、原本・正本・謄本の3部が作成され、原本は公証役場に保管され、正本・謄本が交付されます。遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者が正本を、遺言者が謄本を持っておくことが多いです。
遺言の偽造・変造・紛失に耐える、という意味では、公正証書遺言は特段配慮することがございません。正本・謄本を紛失したとしても、公証役場にて再発行の手続きをとることができます。
イ)自筆証書遺言
一方で、自筆証書遺言の場合、遺言書の内容を見た相続人が、それを隠したり、廃棄したり、変造したりする可能性があります。
遺言書が見つからないとその執行もできないのですが、だからと言って、このような問題があるときは、保管方法を安易に考えると混乱の元となります。
2)遺言書が見つかる工夫
遺言によって自らの意思を実現するためには、遺言者が亡くなった後に、その遺言書を相続人や受遺者に見つけてもらわなければなりません。
公正証書遺言は、偽造・変造・紛失リスクがないにせよ、内容を知られることで、相続人間に無用な確執を生む可能性もあります。それが、遺言者への態度の変容となることもあります。
したがって、内容を知らせずに、「作成したこと」と、「遺言の探し方」だけを相続人に伝達しておくことも一考に値します。遺言作成に関与した当事務所に、遺言書の保管をご依頼になった上で、相続人たちにその旨をお伝えになるといいでしょう。
3)遺言書保管サービスの意義
当事務所では、自筆証書遺言・公正証書遺言どちらも、当事務所の金庫で保管するサービスをご準備しております。
自筆証書遺言が法務局にて保管される制度が、民法改正にて生まれようとしています。その意味では、自筆証書遺言も、手許の置くことによる偽造・変造・紛失リスクが無くなります。
しかし、遺言書を作成した際の想いや状況を当事務所が共有しておくことは意義あることです。遺言の執行時に、当事務所が遺言者の想いを相続人に伝えることで、遺言に対する独りよがりな感情を鎮め、遺言の執行がスムーズに行われ可能性が高まります。
4)遺言書の定期的メンテナンス
経済情勢の変化、資産価値の変化に加え、適用法令が変わる中での、定期的な遺言書メンテナンスをお勧めしています。
特に、遺言執行者として当事務所の司法書士を指定している場合には、定期的に顔を合わせることで、信頼関係を育むことにつながります。
★平成30年3月に通常国会に提出された民法改正案(相続関係)
自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の創設(新法公布の日から起算して2年以内に施行)
① 自筆証書遺言の遺言者は、自ら出頭して、遺言書保管官(法務局)に、民法968条に定める方式による遺言書(無封のものに限る)の保管を申請できます。
法務局の管轄は、遺言者の住所、本籍、又は、遺言者が所有する不動産の所在地です。
② 遺言書の保管が申請された際には、法務局の事務官が、民法968条の定める方式への適合性を外形的に確認し、遺言書は画像情報化して保存されたうえ、全ての法務局からアクセスできるようになります。
③ 遺言書保管官は、遺言書の画像情報、遺言者の氏名・生年月日・住所・本籍、遺言書の作成年月日などを、遺言書保管ファイルに記録して管理します。
④ 相続人等(「関係相続人等」)は、遺言者の死亡後であれば、遺言書情報証明書(遺言書保管ファイルに記録されている事項を証明する書面)の交付や遺言書の閲覧を請求できます。
⑤ また、何人も、遺言書保管事実証明書(遺言書の保管の有無、遺言書の作成年月日、遺言書保管所の名称及び保管番号を証明した書面)の交付を請求できます。
⑥ 保管された遺言書については、公正証書遺言と同じく、家庭裁判所の検認を要しません。
2.遺言執行の下準備
1)自筆証書遺言の検認
自筆証書遺言は、遺言内容を実現する各手続きの前提として、家庭裁判所における遺言書の検認が必要となります。家庭裁判所の検認期日において、遺言保管者と相続人の立会いのもと、遺言書が開封され、検認されます。検認とは、遺言書の形式や状態を調査して、その結果を検認調書という公文書にしてもらうことです。なお検認は、遺言の有効・無効を判断するものではありません。
一方、公正証書遺言は公証人に作成してもらった時点で公文書扱いとなりますから、検認の必要はありません。
遺言書を早く開封したい気持ちはわかりますが、検認をせずに勝手に開封してしまうと偽造・変造を疑われ、紛争の火種になってしまうばかりか、5万円以下の過料に処されてしまいます。開封せずに、まずは家庭裁判所に持っていき、検認をしてもらいましょう。
自筆証書遺言の検認申立て
自筆証書遺言の検認申立て |
3万円 +消費税 |
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2)遺言書が2通以上見つかったら
もし遺言書が2通以上見つかった場合は、効力は後の日付のものが優先されます。ただし、先の遺言の内容で、後の遺言の内容と矛盾しないものは、先の遺言が有効です。見つかった遺言書はすべて家庭裁判所で検認を済ませるようにしましょう。
3)遺言執行者の選任
遺言の内容には、認知、遺贈、推定相続人の廃除又はその取り消しのように、実現するための行為を必要とするものがあります。これをしてくれるのが遺言執行者です。遺言執行者の選任の要否は、遺言の記載内容や、遺言内容を実現する手続きにより検討する必要があります。
遺言に遺言執行者の指定がなかったときや、遺言執行者がすでに死亡しているなどして不在のときは、相続人や利害関係人が家庭裁判所に選任の請求をすることができます。
たしかに、遺言内容が「相続人の○○に~を相続させる」というものであれば、遺言執行を要しない場合もあります。
しかし、手続きの煩雑さを避けるために家庭裁判所にて遺言執行者を選任してもらうことも考えられます。遺言執行者がいれば、遺言執行者が原則としてすべての手続きを行うことができ、他の相続人の協力を仰ぐ必要がありません。
なお、職務が複雑になると予想されるときは、遺言執行者を複数選任したり、遺言執行者が第三者の手を借りたりすることも可能です。当事務所のご支援が必要であれば、お問い合わせください。
3.遺言執行の概要
1)就任したことの通知
相続人や金融機関などに、遺言執行者として就任したことを通知します。相続人が勝手に相続手続きをしてしまうことの予防となります。
2)被相続人の財産目録を作り、相続人に提示する
固定資産名寄台帳、金融資産の残高証明書などをそろえて財産目録を作り、相続人に提示します。
3)各種手続きの執行と遺産の分配
遺言執行者の名で各種相続手続き(登記申請や預貯金の解約)を実施し、遺言に沿った遺産の分配をします。
財産を現金に換価してから分配する「換価遺贈」の場合、財産の処分をします。
4)身分行為の手続き
認知の内容があるときは、戸籍法上の届出をします。
相続人廃除、廃除の取り消しの内容がある場合、これを家庭裁判所に申し立てます。
5)相続財産の保全
相続財産の不法占有者がいれば、これに対して明け渡しの請求をすることもあります。
4.遺言執行サービス
遺言執行者はこのような職務をこなしていかなければなりません。適正な執務を心掛けないと、執行時に無用な争いに発展することもあります。
当事務所を予め遺言執行者に指定いただければ、そのようなご不安は解消されます。
遺言執行
定額報酬の条件 |
報酬額 |
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相続人一人当たり |
1万円 +消費税 |
財産の承継人等一人当たり |
5万円 +消費税 |
遺留分の侵害の可能性のある相続人一人当たり |
10万円 +消費税 |
金融機関等、手続きの相手方一機関当たり |
2万円 +消費税 |
相続財産の価額 |
報酬額 |
500万円未満 |
20万円 +消費税 |
500万円以上5000万円未満 |
(価額の1.0%+15万円)+消費税 |
5000万円以上1億円未満 |
(価額の0.8%+25万円)+消費税 |
1億円以上3億円未満 |
(価額の0.6%+45万円)+消費税 |
3億円以上 |
(価額の0.3%+135万円)+消費税 |
【注】
① 不動産を換価遺贈した場合 … 売却代金の1.0~2.0% +消費税
② 金融商品を換価遺贈した場合 … 売却代金の0.5% +消費税
③ 遺言者の生前債務の清算をする場合 … 5万円 +消費税
④ 遺言者の相続開始前後にかかわらず、相続人等が負担した立替金の清算を、遺言執行者の計算において、遺贈対象財産の送金時に反映する場合 … 10万円 +消費税
⑤ 実費はすべてお客様にご負担いただきます。