10-2.遺言の必要な方とは
日本ではまだ利用度が高くない遺言ですが、「遺言を作成しておいた方が良かった」という代表的なケースが下記のように多く存在します。
一度ご自身の家庭環境に照らし合わせて検討してみましょう。
一つでも当てはまる方は要チェックです!
1.遺言書必要度チェック
□ 子どもがいない
□ 相続人が一人もいない
□ 相続人の数が多い
□ 内縁の妻(または夫)がいる
□ 前妻(または夫)との間に子がいる
□ 配偶者が認知症である
□ 子どもが障がいをもっている
□ 家業を継ぐ子どもがいる
□ 遺産のほとんどが不動産だ
□ 自分の相続で家族に負担をかけたくない
□ 連れ子など家族構成に複雑な事情がある
□ 相続人となる親族に行方不明者がいる
□ 相続人となる親族同士が疎遠である
□ 世話・介護をしてくれた親族に遺産を多く遺したい
□ 推定相続人以外に相続させたい
□ 遺産を社会や福祉のために役立てたい
□ 相続税がかかる見込みである
□ 夫から相続した資産を夫側親族に返したい
2.遺言の必要度のチェックの解説
1)子どもがいない
子どもがいないご夫婦が、遺言の必要な方の筆頭です。遺言がない場合、亡くなった方の兄弟姉妹(その者が亡くなっている場合は甥姪)が相続人となり、残された配偶者が大変な苦労を強いられます。故人の預貯金を使える状態にするだけでも、相続人全員の実印押印した書面と印鑑証明書が必要となります。
従来、預金債権は、相続開始と同時に法定相続分に当然に分割されるとされていました。金融機関も、場合によっては、配偶者の法定相続分相当額だけ払戻しをっ認める対応もしていました。
しかし、平成28年の最高裁大法廷での判例変更により、預金債権も遺産分割の対象とされ、「当然に分割される」ということにはならなくなりました。これにより、金融機関の相続実務も変わり、相続人全員の協力は必須となりました。
★平成30年3月に通常国会に提出された民法改正案(相続関係)
最高裁判例変更で遺産分割の対象となった預貯金についても、相続人各自の相続分の3分の1は、単独で権利行使可能となる見込みです。
>>解決事例>子どもがいない夫婦の相続(遺言なし) について詳しくはこちら(近日公開予定)
2)相続人が一人もいない
法律上の相続人が一人もいない方がいます。ご結婚をせず、子どももいなく、ご自身が一人っ子のケースです。自身高齢であれば、尊属(親や祖父母)もすでに他界しています。
このようなケースでは、相続財産管理人が選任され、相続人(戸籍上の相続人とされていない者を含む)や相続債権者の捜索がされます。そして、相続債権者への債務の弁済などの清算行為を行ない、残った財産を、相続財産管理人が国庫へ帰属させます。
故人と特別な関係のあった方(特別縁故者)に財産を分与する制度もありますが、必ずしも認められるわけではありません。そんな方に財産を遺すには、遺言を作成するのが一番です。
>>解決事例>相続人が一人もいない相続(遺言なし) について詳しくはこちら(近日公開予定)
3)相続人の数が多い
相続人の数が多いと、遺産分割の指針が立たないことがよくあります。互いに人生背景や生活環境、故人との関わり方が異なる方です。
遺言を作成し、遺産分割協議そのものを不要としてあげることや、遺産分割方法の指針を示すことが大切です。
>>解決事例>相続人の数が多い相続(遺言あり) について詳しくはこちら(近日公開予定)
4)内縁の妻(または夫)がいる
内縁の妻は、法律上の相続人ではありません。ご自身の晩年に寄り添ってくれた内縁の妻に財産を遺すには、遺言が必要です。
内縁の妻が住んでいた故人の自宅も、法律上の相続人らに対し、内縁の妻が住み続ける許可を得る必要がありますが、その交渉には多くの困難が伴います。
>>解決事例>内縁の妻(または夫)がいる相続(遺言なし) について詳しくはこちら(近日公開予定)
5)前妻(または夫)との間に子がいる
申し上げにくいのですが、前妻との間の子は、故人を恨んでいることがあります。故人への恨みを前妻が絶えず子らに話すことで、その念が子らに浸透していることがあります。そして、故人がいない以上、その恨みは、後妻とその家族に転嫁されます。
そのような感情である前妻の子らに、相続手続きの協力を仰ぐのは、それ自体が困難であると同時に、後妻にとって多大なストレスがかかります。
遺留分の問題はあるにせよ、絶対に分割できない自宅などは、遺言で後妻に相続させるとするに越したことはありません。
★平成30年3月に通常国会に提出された民法改正案(相続関係)
新たな権利、「配偶者の居住権」の制定
故人所有建物に居住していた配偶者の居住を保護するものです。
遺産分割等までの間についての「短期居住権」と、遺産分割等の後その配偶者が終生住める「配偶者居住権」(制度検討の過程で長期居住権と言われていたもの)があります。
配偶者居住権は、当事者間の遺産分割協議や家庭裁判所の遺産分割調停で配偶者がそれを取得する合意が成立するか、故人が遺言で配偶者居住権を配偶者に与えた場合に認められます。
家庭裁判所の遺産分割審判でも、不利益を受ける建物所有者の不利益を考慮してもなお、取得を希望する配偶者の生活維持に特に必要があると認めるときには、取得させることができるようです。
>>解決事例>前妻(または夫)との間に子がいる相続(遺言なし) について詳しくはこちら(近日公開予定)
6)配偶者が認知症である
相続人に認知症の方がいると、遺産分割協議をするにあたり、成年後見制度の利用が求められます。後見申立てが、遺産分割をすることが動機であっても、遺産分割協議後も後見人の任務は続きます。
認知症の方を交えた遺産分割協議を回避するのに、遺言が役立ちます。
7)子どもが障がいをもっている
相続人に精神上の障がいをもった方がいると、遺産分割協議をするにあたり、やはり成年後見制度の利用が求められます。
これを回避するのに、遺言が役立ちます。
8)家業を継ぐ子どもがいる
家業は得てして、当代の財産の多くを注ぎ込んでいます。
そして、家業を継ぐ子ども(後継者)にとって、家業に供されている土地建物は、自宅であり、事業の拠点でもあります。
すると、家業を継がず外に出た子(後継者の兄弟)に分配できる財産はほとんどなく、全財産を後継者に集中させる必要があります。
遺留分の問題は残るにせよ、分割することのできない、家業に供されている土地建物や自社株は、後継者に相続させるよう、遺言を書くべきでしょう。
>>解決事例>家業を継ぐ子どもがいる相続(遺言なし) について詳しくはこちら(近日公開予定)
9)遺産のほとんどが不動産だ
日本の一般的な家庭の財産構成は、不動産の占める割合が多いのが事実です。預金がほとんどなく、分けるものが自宅不動産のみ、という財産構成が、最も相続人間で紛糾する可能性が高いです。
父様が亡くなったとき、母様が健在である場合にはまだ紛争はありませんが、母様が亡くなったときに、争いは顕在化します。遺言の出番です。
10)自分の相続で家族に負担をかけたくない
自分の親が亡くなったときの相続で、とても苦労した経験を持つ方が少なくないです。自分のような思いを子らにさせたくない、と思う方は、遺言に取り組みやすい環境にあると思います。遺言があれば、紛争を未然に防ぐことができます。
11)連れ子など家族構成に複雑な事情がある
再婚夫婦の場合で、前妻(または前夫)との子も一緒に育てているケースがあります。相手の連れ子には、養子縁組をしていない限り、自分が亡くなった時の相続権はありません。それでも、その子にも財産を遺してやりたいと思うことがあります。そんなとき、遺言を書いてあげるといいでしょう。
>>解決事例>連れ子がいる相続(遺言作成) について詳しくはこちら(近日公開予定)
12)相続人となる親族に行方不明者がいる
相続人となる親族に行方不明者がいる場合、行方不明者を除いて相続手続きを進められると安易に考えてはいけません。通常は、不在者財産管理人の選任をして、その管理人を遺産分割に関与させて、相続手続きを進めます。なお、基本的には、不在である相続人の法定相続分を確保する遺産分割内容としなくてはなりません。また、管理人は、不在者が見つかるまで、基本的には財産管理を継続しなくてはなりません。
このような課題を克服するには、遺言が有効です。
>>解決事例>相続人が行方不明の場合(遺言なし) について詳しくはこちら(近日公開予定)
13)相続人となる親族同士が疎遠である
第三順位の兄弟姉妹が相続人になるケースにおいて、兄弟姉妹の何人かがすでに亡くなって、甥姪世代が相続人の中心となると、親族同士が疎遠であることが多いです。名前も知らない、なんてこともあります。
そのような者どうしで相続手続きを行うのは非常に困難です。遺言を遺して、遺産分割の指針を立てておきましょう。
14)世話・介護をしてくれた親族に遺産を多く残したい
介護は、それをした者にしか、その苦労がわからないと言います。介護をしてくれた方の相続分を増やしたり、長男の嫁さんなど相続人でない介護従事者に遺産を遺したりするには、遺言を書く必要があります。
法定相続分という、平等ではあるけど公平ではない世界に、不平等ではあるけど公平な遺産分割を実現するために、遺言を書くのです。
★平成30年3月に通常国会に提出された民法改正案(相続関係)
特別の寄与、という概念
従来、相続人の配偶者等、相続権がない親族が財産の維持保全に特別の寄与をしても何らの権利も認められていませんが、改正法案はそれらの特別寄与者に寄与に応じた特別寄与料の支払を請求できることするようです。
>>解決事例>世話をしてくれた親族に遺産を多く遺したい(遺言作成) について詳しくはこちら(近日公開予定)(近日公開予定)
15)推定相続人以外に相続させたい
法律上、相続人にはあたらない方に相続させるには、遺言を書く必要があります。第三順位の兄弟姉妹が相続人になるケースであれば、遺留分の問題もないので、安心してその方に遺産を遺すことができます。
16)遺産を社会や福祉のために役立てたい
法律上の相続人はいるけど疎遠であったり、法律上の相続人がそもそもいなかったりする場合、自分の関心のある分野の事業者や、自分が晩年世話になった事業者に対し、財産を継がせたいと思うことがあります。
遺言を書き、遺言執行者に専門職を定めれば、そのような形での遺産承継が可能となります。
17)相続税がかかる見込みである
相続税の申告と納税は、相続開始より10か月以内に行う必要があります。納税額を少なくするには、配偶者控除や小規模宅地特例の適用による課税財産の圧縮が必要ですが、これには、遺産分割協議を成立させないとなりません。
相続人間で争っている場合ではないのです。
そこで、遺言により、遺産分割内容を指定してしまうと、その心配がなくなります。ただし、納税額の軽減につながるような遺言内容の検討が必要です。
18)夫から相続した資産を夫側親族に返したい
夫が資産家の長男で、多くの財産を相続したとします。その後、夫が若くして亡くなり、子も未成年なので、妻が夫の財産を相続しました。しかし、さらに子も早逝してしまったときに、夫の家系の財産を、直系で継いでいく構想が実現できず、夫の両親や兄弟姉妹より、妻が心無い突き上げを受けることがあります。
そんなとき、妻としては、夫側親族に相続資産を遺贈する内容の遺言を書き、夫側親族の気持ちをなだめることができれば、安心して余生を送ることができます。