13-4.高齢の親の財産を管理し、処分したい
1.課題
1)前提
Aさんは東京都昭島市に暮らしています。父はすでに他界し、東京都青梅市の実家には、母Bさんが一人で暮らしていました。しかし、Bさんの物忘れの症状が進んできており、一人暮らしも危ないので、そろそろ施設に入所してもらおうかと思っていました。
2)生前贈与は有効か?
母Bさんが施設へ行くと自宅に住む人もいないので、自宅はいつでも処分できるように、Aさんの名義としておいたほうがいいのかと考えました。しかし、生前に名義を移すとなると、それは「贈与」ということになり、多額の贈与税がかかることがわかりました。
また、自宅を売却したときの、譲渡益の税金の側面から考えると、母Bさんの名義のままで売却したほうが、税制面では優遇されることも知りました。不動産を売却して利益が出た場合、そこには譲渡所得税が通常かかり、最大、売却代金の20%(短期譲渡所得だと40%)が税金で持っていかれます。Bさんの名義のままで売却すれば、居住用財産の売却に関する特別控除の制度の適用ができるとき、3,000万円の利益までは、無税となります。(本件のように、施設入所の直前まで当該不動産を自宅として使用していた場合、適用できる余地があります)
3)認知症だとできないこと
母Bさんの名義を維持するとして、今度はBさんの認知症の進行が気になります。認知症がかなり進行すると、Bさんの意思表示が確認できないことから、不動産を容易に売却できないと聞きました。
4)成年後見でできないこと
では、成年後見制度の利用はどうでしょう。
売却するには、居住用不動産の売却許可を家庭裁判所から得る必要があります。その際、母Bさんの資産が、預金が潤沢にあると、売却してお金に換える理由が見当たらないとし、基本的に認められません。一方で、預金が僅少で、不動産を売却しないと、施設入所費用を捻出できない場合には、許可が得られる可能性が高まります。
Bさんの場合、預金が結構潤沢にあるので、不動産の売却許可は認められないだろうという判断にいたりました。
5)Aさんの希望は叶えられるのか
① 贈与ではない方法で、Aさんが財産を管理・処分できるようにしたい。
② Bさんの預金が潤沢にある状況でも、不動産を先に処分したい。
③ 不動産売却時に、譲渡所得税の居住用不動産の売却に関する特別控除を適用させたい。
本当にいろいろな点から考えてみましたが、どれもどこかの場面でつまずきます。いい方法はないでしょうか?
2.民事信託を活用した解決例
Aさんには、母Bさんを委託者、Aさんを受託者とする民事信託契約を提案しました。
1)認知症になっても処分できる
名義はAさんに変更して、管理・処分権をAさんが握るので、Bさんが認知症になっても安心して処分できます。
2)売却理由に制限はない
成年後見にように、預金が潤沢にあると処分できないなどの制限もありません。
3)生前贈与に当たらない
名義はAさんに移りますが、受益者は母Bさんのままなので、生前贈与にはあたりません。
4)3,000万円控除もOK
また、居住用不動産の売却に関する譲渡所得税の特別控除の特例は使えます。
こうして、Aさんの抱くあらゆる課題を、民事信託を処方することで、解決できました。
本事例に近い、他の悩みにも、オリジナルの解決手段を処方します。ぜひ、当事務所にご相談下さい。