2-4.遺産分割協議のQ&A

2.遺産分割協議

Q1)夫が交通事故で亡くなりましたが、現在、私は子どもを身ごもっています。胎児は相続人になりえるのでしょうか?また、もし仮に胎児にも相続人としての資格があるならば、遺産分割はどのようにしたらよいのでしょうか?

A1)相続における胎児の扱いについては、法律上、次のような規定があります。

【民法 第886条】
① 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
② 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。

したがってまだ生まれてきてはいませんが、あなたが身ごもっているお子さんには、相続人となる権利があるのは確かです。

さて、問題は、遺産分割の方法です。胎児が生まれてくることを前提に先に遺産分割を行ってしまうと、後々に遺産分割をやり直すケースが出てきます。

例えば生まれてきた子どもが一人だとすると、相続人は妻と子で、それぞれ法定相続分は1/2ずつになります。しかし子どもを流産してしまった場合では、相続人は夫の両親と妻になり、法定相続分は夫の両親が1/3、妻が2/3です。夫の両親が既に亡くなっていて夫の弟が生存していれば、法定相続分は夫の弟1/4、妻が3/4となります。

このように子どもが実際に生まれてくるかどうかで、誰が相続人になるのか変わってきますし、法定相続分も変わってきます。

そこで実務上は、胎児が生まれてから遺産分割を行う方が無難だとされています。

胎児が生まれてくる前にも胎児名義の相続登記を申請することは可能です。しかし名前を登記できませんので、「亡鈴木〇〇妻鈴木〇子胎児」となります。実際に生まれた後に氏名変更の登記が必要になりますし、残念ながら死産の場合には、「錯誤」を理由に所有権更正の登記をする必要があるなど、煩雑にならざるを得ません。

相続税の申告については、別途税法上の注意があります。

 

Q2)所在のわからない相続人がいるため、遺産分割協議を行うことができません。こういった場合は、どうすればいいのでしょうか?

A2)現在の住所が分からずに連絡が取れないという場合には、戸籍を辿って現在の戸籍の附票を取り寄せて今の住所を探し出すことができます。

しかし、現在の住所が分かっても、そこに住んでいない等連絡が取れない場合には、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てます。選任されたこの財産管理人は家庭裁判所の許可を得た上で、不在者の代わりに遺産分割協議に参加します。

この他、行方不明の状態が7年以上続いているような場合には、家庭裁判所に失踪宣告を申し立て、死亡したものとみなしてもらう方法もあります。

船舶事故や震災等に遭って、その後1年以上生死不明の状態にある場合にも、失踪宣告の申し立てができます。

>>相続人が行方不明の場合 について詳しくはこちら

 

Q3)父の遺産の分割協議を終えたあとに、父の子と名乗る人物が現れました。戸籍を調べてみると、確かに父が認知した子でした。遺産分割協議は一からやり直さなければなりませんか?

A3)相続人を一人でも欠いた遺産分割協議は「無効」ですから、やはり遺産分割協議はやり直さなければなりません。

なお、被相続人(当該事例では父)の死亡後に、認知の訴えや遺言により認知され、相続人になるケースもあります。この場合、既にした遺産分割協議は有効とされ、認知された子の相続分に応じた価額を支払えばよいことになっています。

 

Q4)相続人に未成年者がいます。どのように遺産分割協議をすればよろしいでしょうか?

A4)未成年者は行為能力がありませんので、未成年者自らが遺産分割協議することはできません。そして、親と子が相続人である場合には、親は未成年者を代理することはできません(民法第826条)。

親が、その子とともに遺産分割の協議に参加することは、利益相反行為にあたります。親の相続分が増えれば増えるほど、子どもの相続分は減っていく関係にありますから、親が子どもの代理人になるのは好ましくないということです。この場合、家庭裁判所に対して特別代理人の選任を要します。

また、同じ者の親権に服する未成年者が2人以上いる場合には、それぞれ特別代理人の選任を必要とします。子と他の子との利益が相反するからです。

>>相続人が未成年の場合 について詳しくはこちら

 

Q5)私は実印を持っていません。遺産分割協議書は認印でもいいですか?

A5)認印は使用できません。お住まいの市区町村役場に印鑑登録をして、実印を用意してください。印影が鮮明でないものなどは登録できません。登録できる印鑑・できない印鑑が決められていますので、詳しくは市区町村役場にお問い合わせください。

Q6)海外に住んでいる相続人がいて、実印がありません。どうしたらよいでしょうか?

A6)大使館や領事館で、「署名証明」を取得することで、対応できます。

署名証明には複数の形式がありますが、遺産分割協議書の場合には相続人が領事館に遺産分割協議書を直接持参し、領事の面前で署名する方法が最も無難だと思われます。

 

Q7)遺産分割協議書は相続人の人数分つくらなければいけませんか?

A7)相続人の人数分作るほうがいいでしょう。後々のトラブル防止のためにもそうすべきでしょう。

遺産分割協議書は、銀行預金を特定の相続人が取得する(口座の名義変更・解約)場合、不動産の所有権移転登記(相続を原因)をする場合、自動車の所有権移転登録する場合、相続税の申告時(配偶者の税額軽減の特例を受けるときなど)にも必要となる書類ですから、その分も加味すると、より手続きがスムーズとなります。

 

Q8)不動産と借金は長男が相続するという遺産分割協議書は可能でしょうか?

A8)そのような遺産分割協議書も可能ですが、借金については注意点があります。たとえ「すべての借金は長男が相続する」と協議書に記載しても、債権者にそのことを主張することができません。

債権者は法定相続分の割合で、各相続人に返済を求める権利を持っています。

なお長男以外の相続人が債権者に返済した場合は、その返済した金額を、借金を相続した長男に請求することができます。

 

Q9)兄弟3人で父の遺産を相続することとなりましたが、長男である私が土地と自宅を受け継ぎ、銀行預金3,000万円を二男、三男で半分ずつ分けることで合意をしております。このような場合に、遺産分割協議書を作成する必要はありますか?

A9)後日の紛争を避けるためにも、協議の内容を明確にした書面を残したほうがよいでしょう。また、各種の相続手続きにおいて遺産分割協議書の提出が必要となりますから、遺産分割協議書は作成すべきです。

例えば不動産を相続人の一人が相続する場合、不動産の名義変更には必ず遺産分割協議書が必要になります。

 

Q10)父が亡くなり、遺言書が出てきました。しかし兄弟で話し合った結果、遺言書に書かれた内容と違った遺産分割の分け方をしたいと考えています。問題はないでしょうか?

A10)遺言書があっても、遺言書の内容によっては、相続人全員の同意があれば遺言と異なる遺産分割協議は可能です。ただし、遺言による遺贈があれば、受遺者の同意も必要となりますし、遺言執行者がいる場合には、遺言執行者の同意を得る必要があります。

なお、遺言書の内容で、遺言と異なる遺産分割協議ができないケースとして裁判で論点となったケースは、特定の財産を特定の相続人に相続させるとする条項のある遺言書です。この場合、相続開始と同時に当該相続人に遺産が帰属するので、その後の遺産分割協議による他の者への帰属は、交換の実質を持ち、税務上の課題や、登記実務上の課題があるとする向きもあります。

 

Q11)姉と二人で、亡くなった父の遺産(土地、預金)を、遺産分割協議をして相続したのですが、しばらくして、別の銀行口座に預金800万円があることが判明いたしました。遺産分割協議はやり直しとなるでしょうか?

A11)このようなケースを想定して、記載漏れがあっても、改めて遺産分割協議をしなくて済むように、発見資産を、どのように分配するか決めておくことがあります。一方で、後日発見された資産は、その際に再度遺産分割をする旨を記載しておくこともあります。

発見資産の資産価値により、対応は様々あると思います。たとえば、遺産は配偶者に集める趣旨の協議であれば、後日発見した財産がそれなりに価値のあるものであっても(もちろん、価値の低いものでも)、遺産分割協議後に発見した相続財産は、妻○○が相続する、という条項による処理でもいいと思います。

一方、価値が高いがゆえに、上記の条項で処理することに問題がある場合には、再度、その遺産について遺産分割協議を行う方が、相続人間の合意が形成される場合もあります。


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