2-5.遺産分割協議の失敗事例
1.遺産の不動産に誰が住むのかをよく検討しなかった(失敗事例1)
両親の残した住居と土地を、兄の健太郎さん(仮名)と妹の千代子さん(仮名)が共有で相続しました。相続当時は一時的に空き家となりましたが、現在は健太郎さん一家が住んでいます。金融資産は二人で平等に分けました。
不動産を相続した時の持分割合は、健太郎さんが4分の3、千代子さんが4分の1ですが、数年後に自宅の老朽化に伴って建替えを検討することになりました。
しかし、千代子さんとの共有のままでは、抵当権の設定に千代子さんの承諾が必要となるところ、千代子さんは反対の意思表示をしました。
結局、健太郎さんは千代子さんの土地持分を1000万円で買い取ることになりました。
その結果、
・健太郎さんの負担……土地購入代金1000万円、不動産取得税、登録免許税
・千代子さんの負担……土地売却に伴う譲渡所得税
という経費が発生しました。
千代子さんは兄妹の間ですから「もっと安くてもいい」という気持ちでしたが、兄妹間の売買の場合は、時価で売買しないと贈与税がかかってくる恐れがあるということで時価に近い金額での売買となりました。
2.納税などの関係で、遺産分割協議を急いでしまう(失敗事例2)
幸次さん(仮名)の亡くなったお父さんは、自宅と、賃貸住宅2棟(A棟は築10年、B棟は築40年)という合計3つの不動産を残していました。
それらを相続したのは、妻小百合さんと幸次さんです。
3つの不動産には、面積や立地条件に若干の違いがあったことと、相続税の納税の関係で遺産分割を急いだ結果、すべての不動産を小百合さんと幸次が2分の1ずつ共有することで遺産分割をしました。
後日、賃貸住宅B棟の建替えを機に、賃貸住宅B棟からは小百合さんの名義を抜き、幸次さんの名義としようということになり、遺産分割協議のやり直しを検討しました。小百合さんが高齢なので、建物竣工時に、判断能力が維持できているか、不安があったためです。
遺産分割のやり直しは、法律的には、相続人全員による合意解除と再分割という論理で可能ですが、この方法によると、税務上は贈与税の課税が避けられません。
そこで、この問題を解決するため、「固定資産の交換の特例」を利用した持分の交換で対処することになりました。具体的には、B棟では、小百合さんの持分全部を幸次さんに移し、A棟では、幸次さんの持分の一部を小百合さんに譲渡することにしました。 A棟の敷地の面積が少し広く、A棟敷地の価値がB棟より高いため、このような交換でないと、「等価」と言えません。同特例は、等価と言える範囲で交換しないと、適用ができません。
この特例の適用により、交換では本来かかるはずの譲渡所得税はかからないようにできましたが、名義を新たに小百合さん、幸次さんのそれぞれに、不動産持分の取得に伴う不動産取得税と登録免許税は別途かかました。
3.まとめ
「とりあえず共有にしておこう」は後悔することが多いです。
この二つのケースは、兄弟姉妹・親子間ということもあって、ごく自然な成り行きでとりあえず共有として遺産分割をした例です。
ところが建替え問題等が後になって発生して、本来払わなくてもいい税金が余計にかかってしまったのです。
二つの事例の対処法として、失敗事例1では土地を健太郎さんが、金融資産を千代子さんが相続しておけば、土地購入に伴う不動産取得税、登録免許税、譲渡所得税はかかりませんでした。その際、土地評価額と金融資産の差額を「代償分割」することで、後日の手続きも必要なかったと考えられます。
失敗事例2では、築40年の賃貸住宅B棟は、建替えを想定して、当初より幸次さんの単独名義とすればよかったと考えられます。
このように、急な相続発生で気持ちも動転している中で「とりあえず共有にしておこう」と遺産分割をしてしまうのは、よくあることなのかもしれません。しかし将来のことを考えると、浅はかな選択をしてしまったと言わざるを得ません。
更に兄弟姉妹は仲がよくても、親の死後に関係が変化し、相続問題で大きな争いになることもあります。それぞれに抱えている状況が違うので、そのこと自体を責めることはできません。
しかし、当初から相続に精通している専門家に相談して遺産分割を行なえば、このようなことを避けられます。ぜひ、一度当事務所までご相談ください。